2014年5月29日11:12 AM

先月、勉強のために参加したセミナーで、JR九州の豪華列車「ななつ星」と「東京オリンピック・パラリンピック」の組織委員会のそれぞれの広報活動の話を聞きました。特に印象に残ったエピソードを紹介します。

JR九州は、ななつ星関連の報道発表を、運行開始の2013年だけで30回行ったそうです。「何かしら取り上げてもらえそうなものはすべて出す」という方針で、記者会見やプレスリリースを積極的に実施したといいます。

ここで大事なのは「取り上げてもらえそうな」ということです。何でもかんでも手当たり次第に発信するということではなく、ちょっとしたことでも、足したり引いたり組み合わせたり分解したりして、ニュースの素材に育てたのだと推察します。「ちら見せ戦略と言われながら」も、ニュースの素材を細かく見つけ出し、価値を付け、発信し続けた、その貪欲さに頭が下がる思いでした。

東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会は、良いニュースと悪いニュースについての話が印象的でした。悪いニュースが出てしまったときは、その対応に躍起になるのではなく、もっと良いニュースを出していくことに注力したといいます。

例えば、原発の汚染水のクライシスレベルが上昇しているというネガティブな情報が出ているときは、それはそれとして受け止め、ドーピング違反ゼロの日本選手といった別のアグレッシブな情報をどんどん発信する。良いニュースで悪いニュースを押し出してしまい、ポジティブなニュースの面を拡げていくことを第一に考えたそうです。悪いニュースが出たときは、その火消しのことばかり考えがちですが、そこは腹をくくって頭を切り替え、次の活動にすばやく移るということも必要だとあらためて感じました。

そして、両者に共通していたのが、当該分野を長く取材している記者との関係を大事にする、ということでした。東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会では、IOCを30年も追いかけているジャーナリストとのリレーションを深める努力をして、そのジャーナリストからの様々なフィードバックを次の戦略に生かしたそうです。JR九州は、ななつ星運行開始の一週間前に、電柱・設備の基準違反を発表することになったけれど、ずっと取材してくれていた記者からはきちんと発表したことが評価され、このくらいでよかった、と逆に励まされて次の行動の活力になったといいます。

その分野を長く取材しているジャーナリストの視点や知見は、経営機能としての広報にとって宝です。

わたしも先日、外資系企業の日本進出に関する広報活動の仕事をしていて、そのことを痛感しました。記者会見のあと、ベテランジャーナリストの方々が次々に感想や考えを述べてくれます。会見中の質疑応答でも的を射た質問によって、発表者側があまり重視していなかった市場の関心事を気づかせてくれます。これらは、次の広報活動に生かすなどという限定された範囲のことではなく、その企業や組織のビジネス活動そのものに有益な示唆を与えてくれます。

記事になれば効果はさらに高まります。もちろん、タイムリーなストレートニュースが、大手を含む多くの媒体で報道されることは大切です。しかし、業界を長く取材してきた歴戦のジャーナリストによる、独自の視点で深堀りした記事が掲載されることで、広報の成果にも厚みが増すことになるのではないでしょうか。

それが、ときには厳しい論調だとしても。

 

トラックバックURL