2014年3月19日12:50 PM

養老孟司著「バカの壁」(2003年、新潮新書)に、脳内の一次方程式という話がある。人間は脳に情報が入ってくると(入力)、基本的には何らかの反応をする(出力)。入力から出力の間に、脳は情報を回して動かしている(係数)。この係数がプラスかマイナスかによって、出力としての反応や行動が変わってくる。これを一次方程式で表すと、

y=ax

xが入力、yが出力、aが係数である。養老さんは、ここでいう係数のことを「現実の重み」と呼んでいる。係数は、人によって、あるいは情報によって違ってきて、これがゼロになると話しても通じない。たとえばパレスチナ問題。たとえばおやじの説教を全然聞かない子供 (ヨクワカル)。

あらためて読むと、広報の仕事の姿勢を考えるうえで指針になる話であります。

y=axは、企業や組織の様々な取り組みを発信して、社会とよい関係を築いていく広報のプロセスそのものを表している。組織内で起きる出来事を広報素材として入力して(x)、メッセージや発表物として出力する(y)。でも、そのまま出力してはだめだ。広報素材に対し、社会の要請や世の中の流れをふまえた広報の視点・価値観を係数(a)としてかけて、情報の価値を高めて発信する。

y=ax

この方程式の係数(a)が、広報に携わる人の価値である。

さらに、広報の大事な仕事のひとつであるメディア対応では、もうひとつの方程式を意識しなければならない。

z=by

メディアにとって、企業や組織からニュースリリースや記者会見、個別取材などで出力された情報は、ニュースの素材のひとつとして入力されるにすぎない。メディアは、企業や組織の取材や情報提供による入力情報 (y) に、メディアの視点・価値観を係数 (b) としてかけて、最終的にニュース (z) として出力する。ちょっと乱暴に単純化してしまうけれど、b>0のときに中立的あるいは少しばかり幸運なら好意的な報道に、反対にb<0のときは否定的な報道になる可能性が出てくる。b=0だと無視される。

広報は、y=ax, z=by という連立方程式を理解していないと仕事にならない。これを常に行動の基盤にして、広報としての係数 (a) を磨き、メディアの係数 (b) にプラスの影響を与えられるような仕事が求められている。2つの式をまとめて、z=abxとしてみてもよくわかる。

自分の仕事の出力が、仕事相手の出力にどう影響するかまで想像をはたらかせることは、どんな仕事にもあてはまるプリンシプルではあるまいか。

それはそうと、最近のなんちゃらのベートーベンやらリケンやらの会見の模様や一連の報道を見ていると、メディアの側も真剣に係数磨きをしてほしいと思いますけどね。

 

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