2013年5月24日9:23 AM

わたしが今、パブリックリレーションズの仕事に携わっていられるのは、かつてアメリカはシリコンバレーの代表企業であったSun Microsystemsのおかげである。17年ほど前に縁あって日本法人に入社した。Sunは節目節目で先見性に富んだメッセージを繰り出し、感度の高い顧客やメディアの共感を大きな駆動力にして前に進んでいく企業であった。

Sunは創業間もない1984年頃から「The Network Is The Computer(ネットワークこそがコンピュータである)」という、今ならなるほどそうだと思えるけれど当時は並外れていたであろう、類まれなる社是を掲げて事業を進めた。アメリカでも商用インターネットが始まっていない時代である。Sunの創業者たちは具眼の士であった。

1984年といえば、カール・ルイスが活躍したロサンゼルス・オリンピックの年であり、グリコ・森永事件が発生し、自動車のCMでエリマキトカゲがブームになり、菊池桃子がデビューして、広島が阪急を破って日本一になった年である。アップルが初代マッキントッシュを発売した年であり、パソコンはまだ一部のマニアのための高価な機械だった。

その後、Javaというネットワーク技術を発明した1995年頃から打ち出したのが、「Anyone, Anytime, Anywhere on Any device(だれでも、いつでも、どこでも、どんなデバイスでも)」である。これも今のネット環境ではあたりまえになってきたけれど、当時はちょっと前にNCSA Mosaic、そしてNetscape Navigatorという閲覧ソフトがリリースされたばかりで、IT関係者にインターネットが認知され始めたころである。

1995年といえば、阪神大震災の年であり、野茂投手がロサンゼルス・ドジャースに入団し、スーパーモンキーズの安室奈美恵がソロデビューし(というかダウンタウンの浜ちゃんまで小室ファミリーとしてヒットを飛ばし)、オリックスが阪急時代の1984年以来となるパリーグ優勝を果たしたが日本シリーズではヤクルトが勝って日本一になった年である。当時所属していたコンピュータ業界の巨象IBMでも、まだインターネットのメールアドレスを記した名刺を持っている社員はほとんどいなかった。

Java誕生から10年が経過した2005年、Sunは「Participation Age(参加の時代)」と言い出した。このメッセージは、狭義においてはオープンソースの普及をふまえて主にJava開発者のコミュニティに対して発信されたものだったが、広義においては社会全体の新しいうねりや変化をも見据えたものだった。それは当時SunのCOOだったジョナサン・シュワルツの発言からも見てとれる。

「特定の供給者がコンテンツを提供して利益を得る『情報の時代(Information Age)』は終わった。これからは、あらゆる人々が情報を発信して経済活動にかかわる『参加の時代(Participation Age)』だ」
(日経BP社 ITpro 2005年7月29日付け記事 http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/NBY/ITARTICLE/20050726/165297/ より引用)

2005年といえば、フェイスブックもツイッターも一般サービスが開始される前の年である。当時僕は、特に耳の早いネットメディアの記者から、これから注目のサービスとしてフェイスブックとツイッターの話を聞いたのだけれど、どんなサービスなのかさっぱりイメージがわかなかった。興味津々でメモしたのだが、そこには「フェースブック?」「トゥイッター?」と書いてある。

そして現在。果たして「参加の時代」は到来した。卑近な例だけど、高校1年生になるわたしの長女は、大好きなアーティストのきゃりーちゃんやSEKAI NO OWARIとLINEでつながって、彼らの活動に「参加」している。ライブやテレビ出演の情報はそれらのアーティストから直接得て、ライブに参加したりテレビを観た感想や感激や情報そのものをLINEやブログで自由に発信し友達と共有している。それはアーティストからファンへ、ファンからアーティストへの単なる一方通行の積み重ねではなく、そばで見ているとなにか一体となって動いている感じだ。わたしの高校時代、菊池桃子はまさに偶像でしかなかった。

企業や組織のマーケティング活動においては、顧客やパートナーを含めたコミュニティというものを、これまで以上に意識しなければならなくなった。今は消費者が企業ではなく他の消費者を信頼する時代といわれているわけであって、ネット上の膨大な消費者の発信はマーケティング活動の生命線である。消費者にどうやったら企業活動に「参加」してもらえるかをみんな必死で考えている。消費者のほうも、スマートフォンやタブレットPCの普及もあって、ネットでなにかに「参加」することへのハードルが極端に低くなった。いつの間にか企業のマーケティング活動に「参加」させられていることもある。いずれにしても、企業にとってお客さんが重要なマーケターという位置づけになった。これは、パブリック・リレーションズやマーケティングに取り組むわたしたちが、いま必ず意識しなければならないことである。

とかなんとか考えていて、「参加の時代」の次にはなにがくるんだろうと思いをめぐらしていたら、電車を乗り過ごしそうになってしまいました。

よい週末を!

 

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