2013年10月31日8:37 AM

1983年のNHK特集「スポーツドキュメント 江夏の21球」がプレミアムアーカイブスで再放送された。原作である山際淳司のノンフィクションは何度も繰り返し読んだけれど、映像化された、この傑作ドキュメンタリーは未見であった。

こんな番組です。「昭和54年、日本シリーズ広島対近鉄の優勝をかけた第7戦。9回裏、近鉄無死満塁の逆転のチャンスを抑えた広島・江夏投手の21球を克明に分析、当事者の証言を交え、観客には見えないプロ野球の裏側に秘められたドラマを再現する。」(NHKアーカイブスのサイトより)

この物語のクライマックスは、一死満塁の場面でバッター石渡のスクイズを山なりのカーブではずした江夏の19球目である。このスクイズ失敗で近鉄はチャンスを生かせず、石渡は結局三振にたおれ、広島が初の日本一となる。このウェストボールをとっさにはずしたものだと言う投手・江夏と偶然のすっぽ抜けだとする打者・石渡のそれぞれの主張も、スポーツ選手の矜持と人間臭さの両面が感じ取れておもしろい。

もうひとつ、無死一塁三塁の場面で古葉監督が池谷と北別府をブルペンに送る場面。二人とも当時の広島を支えた大投手である。雌雄を決する試合。総力戦の様相だ。しかし江夏はこの監督の動きに反発をおぼえる。俺を信用していないのかと。監督は延長の可能性を考えて、リーダーの視点で準備をする。江夏はエースの自尊心をむき出しにする。企業での仕事でもありそうな場面だ。江夏の感情を察して俺も同じ気持ちだとマウンドまで声をかけにいった一塁手の衣笠はさしづめ、自分を理解してくれる頼りになる同じ部署の先輩といったところか。

さて、わたしがもっとも印象に残ったのは、ノーアウト一塁の場面で代走の藤瀬が盗塁する場面である。江夏の5球目に藤瀬が走る。キャッチャー水沼の送球が二塁手前でワンバウンドになる。ショートの高橋慶彦が取れずセンターにボールが転々、ヘッドスライディングした藤瀬はすぐに立ち上がり三塁をおとしいれる。近鉄は同点の絶好のチャンスを手に入れる。

この場面について当事者たちが口々に語るのは、自分のプレーに対する責任である。水沼はなぜいい球を放れなかったのか、高橋はなぜ球を止められなかったのか、と真摯に話す。江夏も、キャッチャーの悪送球など二の次、走られたのは気付けなかった自分の責任、とふてぶしくも誠実に語る。当事者だけが語れる素直な言葉だ。

だれも人のせいにしていない。プロとして自分のプレーに対して責任を持つという、純粋で強い気持ちが伝わってくる。

ここのところ銀行、ホテル、芸能人の謝罪会見が連日報道されているけれど、どの顔も一応謝るけど私のせいぢゃないよという顔にしか見えない。

そんな中、この空前絶後のドキュメンタリー番組は、とてもすがすがしい感動を与えてくれました。

 

トラックバックURL