2013年1月18日12:58 PM

広報の仕事に求められるレスポンスには2種類あると考えている。そのことについては以前にも書いた。ひとつはスピード、もうひとつは感度である。

スピードについては、広報の基本姿勢として第一優先に位置づけられている。クイックレスポンスである。メディアから企業や組織の広報への要望でも真っ先に語られる。これはメディアのリクエストにすばやく回答を出すことだけを指すのではない。回答できないなら回答できないとすばやく回答することも含む。メディアには締め切りがある。

感度というのは、テーマのとらえ方のセンスといってもよい。会社の状況と社会の時流をバランスして、たとえば取材テーマに対して何が提供できるのか、あるいはできないのか、判断する力である。この力を得るためには、自分のアンテナを常に社内外に伸ばし、高い性能を維持しておくことが必要だ。感度が欠けていると正しい判断ができなくなる。

こんなことを考えていたら、自分が失敗したときのことを思い出しました。

ずいぶん前のことだが、所属していた米国系IT企業で、それまでとっていた分社体制をふたたび統合することになったタイミングがあった。逆に日本企業は分社化まっさかりで、大企業が続々と機能ごとに複数の会社に分割されていった。当時、シリコンバレーの企業は、技術でも経営でも世界を引っ張っていて、日本でもお手本にする風潮があった。そのシリコンバレーの代表的な会社が、なぜ日本企業の分社化と逆の動きをしているのかということに、経済紙の記者が注目してくれたのだ。

担当記者とも(たぶん)良好な関係ができていたので、電話で取材依頼を受けて、「いいですね、わかりました、すぐ社長取材組みますよ」と即答し、その足ですぐ社長に話しに行った。外資系企業が日本の新聞に取り上げられるのはハードルが高く、新聞にいかに取り上げてもらうかが当時の命題になっていたので、絶好のチャンスと軽快に階段を駆け上がった。

ところが社長の反応は、「田中くん、その取材は受けないよ」であった。「ええっ!」 ふだんは「なんで新聞に記事が出てないんだ」とかなんとかいって広報を困らせているのに。

経営的に前向きな体制変更ではないというのが理由だった。詳しい内容は忘れてしまったけれど、広報としては説明次第で好意的な記事になると思っていたので、説得しようと粘った。業績が下降気味だからこそ、会社を取り巻く雰囲気を少しでも変えるチャンスであると。でも力およばずで、社長はついに首を縦に振らなかった。そして、記者にすぐ折り返し「申し訳ありません、その取材受けられなくなってしまいました」と泣く泣く電話した。

普段はどちらかというと落ち着いた雰囲気の記者が、電話口で憤怒の形相であった(わたしにはそれがはっきりと見えた)。予想以上に強い口調でとがめられた。経営面で大きく展開する企画を通していた。わたしとの信頼関係の中で判断してくれていたのだ(と思う)。

最初の電話から一時間くらいだったが、記者はそれぐらいのスピード感でやっている。そのスピード感にあわせて、クイックレスポンスばかりを重視していた。しかし、それと安請け合いとはちがう。スピードに感度が加わってはじめてレスポンシヴな対応ができる。

自分の情報不足と認識不足、甘い見通しで、記者の信頼を裏切ってしまった。

猛省しました。

 

トラックバックURL