2012年12月13日5:17 PM

ただいま、横山秀夫の新刊「64(ロクヨン)」を読んでいます。これまでに横山作品はすべて読みました。たしか本屋で平積みになっていたものを何気なく手にとって読み始めたと思うのですが、短い文章で小気味よく展開されるストーリーに、ズブズブとはまり込んでいきました。

もちろん、日航機墜落事故を取材する地方新聞社を舞台にした「クライマーズ・ハイ」は、発売された2003年当時、わたしの仕事の大きなテーマが新聞記者とのリレーションだったのもあって、興味深く読みました。記者が事故原因のスクープの裏取りのために、旅館に忍び込んで事故調査官にあたったあと、デスクに報告するときの「サツ官ならイエスです」という科白が印象的であります。

こんどの64は、地方警察のメディア対応を担う広報官が主人公です。自分がこの立場だったらと思いをめぐらし、記者や上司や他部署とのやりとりなどに感情移入しながら読み進めることができます。たいがいが広報としてやりたくないことをやらなくてはならなくなったときのシミュレーションになってしまいますけど。

それにしても、この小説での広報室をあらわした言葉はざんざんなものです。並べてみるとこんな感じです。

「ただ胡散臭いだけの存在」「記者の手先」「警務部の犬」「昇任試験の勉強部屋」「組織防衛の門番」「嘆息の巣」

なかなかのもんでしょう、ほんとに(笑)。権力とメディアの関係と企業とメディアの関係は、性質が違う部分もありますし、小説なので多少デフォルメがあるとはいえ、この言われようです。

こんな言われようのなかで、企業の広報にとって大事なキーワードが、本書の中にみつかりました。それは、「外に向かって開かれた唯一の窓」という隠喩。「唯一の」がこの小説の舞台であるD県警の閉鎖性を強調したものであるとするならば、これをとっぱらって「外に向かって開かれた窓」。これは、広報の仕事を的確にあらわした言葉であります。

広報の仕事は、とかく外に向かって情報を発信していくことがフィーチャーされますが、それだけではありません。自分たちの会社や組織が世間からどう見られているのか、世の中によく耳を傾けて、社内にフィードバックすることによって経営に反映させる。専門用語では広聴機能といいます。

暖房であたたまった快適な部屋には、空気の入れ替えが必要です。ときどき窓を開け放ち、新鮮な空気を取り込まなければ、健康にもよくありません。社内の常識が世間の非常識にならぬよう。

なにはともあれ、作者7年ぶりの新刊、主人公の広報官がどんなストーリーに巻き込まれていくのか、読み進めていくのが楽しみです。

 

トラックバックURL