2012年9月7日1:33 PM

先日、お客様の役員向け広報レクチャーを行う機会があった。役員全員が会社の情報取り扱い上級責任者であり、特にマスメディアを通じた情報発信についての知識は不可欠、という社長の強い意識のもとで開かれた。やっぱり、企業の広報活動はトップの理解が大きな推進力になります。

広報に関連するレクチャーを実施するときはだいたいいつも、広報の基本的な考え方から、記者会見やプレスリリースや取材対応などの具体的な活動内容に入って、情報管理や危機対応における広報の役割で締める。きわめてオオソドックスなスタイルであるが、営業やサービスの現場の方々の感覚とかけ離れた、広報かくあるべき論が強すぎないように心がけている。

とはいえ、このようなレクチャーを行うと、たとえば営業部門の方から「そうはいってもさ、会社の意図通りの記事が出ないことがよくあって困るんだよね。記事を読んだお客さんに誤解を与えてしまうし、余計な説明もしなきゃなんないし」というような発言が出ることがある。言い換えれば、どうしてもっと企業の思い通りに記事が出ないの、ということでもある。

そんなときは、記事を書く側(メディア)と記事を書いてほしい側(企業)の意識がそもそも違うんです、という話をする。会社の幹部ともなると、それぐらいわかってるよ、という顔をする人がほとんどだけれど、根本的には理解していない場合が多い。

企業が広報活動を行う理由は、大上段には市民として社会との良好な関係を築くといったことがあるが、より実際的には記事が出て会社や商品が有名になって売上や利益も増えてほしいという期待がある。だから、会社や商品をポジティブに宣伝してくれる記事を書いてほしいと考える。考えるだけなら、ごく自然なことである。

一方、メディアは読者の関心を引くニュースを求めている。取り上げる価値の高い、反響の大きい素材を求めている。企業の言うとおりになんか書かない。特に今は企業側の発表がホームページやそこらで直接読める時代だ。メディアの判断や見解が入っていない記事になんの価値があるのだろう。

企業が取り上げてほしい素材とメディアが取り上げたい素材がピタリと合うこともゼロではない。過去にもメディアと企業の思惑が一致し、大きな記事になった例は少なくない。

しかし、企業とメディアの間に意識ギャップは厳然とある。そして意外に大きい。企業側はそういうものだと理解することがまず大切であり、埋まらないギャップをそれでも埋めようという意識のもとでメディアと相対するのが広報担当者や他ならぬスポークスマンとしての経営幹部の役割だと考えている。

それでも企業の広報をやっていると、「なんでこんな記事が出ちゃうの」とイヤミを言われたり、ひどいのになると「なんでこんな記事書かせたんだ」と叱責を受けたりすることもあるのではないか。だいたいにおいて、こういうことを言う幹部は、この意識ギャップを理解していない。不祥事やなにか問題が起きたときには、率先して隠せというタイプである。

社内がこうならないように、発言力を高めて、コツコツと広報の常識を浸透させるのも、広報の大事な仕事です。根気のいる仕事です。

 

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