2012年7月20日9:47 PM

企業や団体がニュースの素材資料として報道機関に配布するプレスリリースは、簡潔かつ明解を旨とする文書でなければなりません。「いつもどこがニュースかわからない、冗長かつ論旨のはっきりしないリリースを送ってくる企業のものは、タイトルも見ずにごみ箱行きさ」という辛辣な話もよく聞くくらいですから、一回一回全力投球です。

まずタイトルと第一段落が第一関門です。タイトルでは何が新しいことなのかを端的に表現し、第一段落ではニュースのポイントがわかりやすくまとめられている必要があります。毎日の取材活動で忙しい上に膨大な量の売り込み文書が届く記者や編集者の資料として、生き残れるかの最初のハードルです。

さて、第一関門を突破したら次の関門が待っています。本文です。たとえば新製品の発売であれば、本文はその製品のどこが新しいのか、どんな特徴があるのか、この製品を使う企業や人はどんなよいことがあるのか、を書くステージです。記事にしてもらえるか、すぐに記事にならなくても問い合わせや取材をしてもらえるかは、たいていここにかかっています。

もちろん本文も簡潔・明解が求められるので、短い文章でわかりやすく具体的に表現します。わかりやすさといえば、新製品の特徴などは箇条書きにするのもよい、と書いてある教科書も多いのですが、わたくしはきちんと文章で書くようにしています。

「知的文章とプレゼンテーション」(黒木登志夫著、中公新書、2011年)に、こんな一節があります。「言いたいことは、「文脈」の中で展開されて説得力が生まれる」

文脈とは文章のつながりです。前後の文章はただ並んでいるだけではありません。相互に意味をもって配置されます。文章とは、書き手の論理的な思考が表現されているものだからです。だから、読み手は、文章のまとまりを読むことによって理解が深まる。

プレスリリースは、短い時間に読み手を説得しなければならない文書です。一息に読んで理解してもらうには、この文脈が大切だと考えています。箇条書きでは個々の文の関連性が分断されてしまって、文脈をつくることができません。

プレゼンテーションや講演の資料に箇条書きが使われますが、それは口頭で説明することを前提にしているからです。トークによって文脈をつくっているのです。講演資料だけ読んでも内容をよく理解できないのは、そこに文脈がないからだといえます。

なお、新製品の発表資料であれば、出荷開始日、価格、製品仕様などの定型事項は箇条書きだとわかりやすいし、細かい仕様や機能は別紙に箇条書きしてもよいでしょう。

プレスリリースの本文は、あくまでも文章のまとまりで書くことが有効だと考えます。

そういえば、丸善丸の内店の松丸本舗って、わくわくします。ここの書棚は文脈棚と呼ばれていて、本を著者別や分野別でなく、中身で結び付けてて並べている。普通の本屋ではない発見を与えてくれます。意味でつながるということが説得力を増して、なにか行動を促すことをとてもわかりやすく証明してくれています。

 

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