2012年6月12日12:16 PM

航空会社スカイマークの乗客向け対応方針を明記した「サービスコンセプト」という機内文書が物議をかもしている。「荷物の収納は手伝わない」「丁寧な言葉遣いは義務付けていない」「苦情は受け付けない」などナイナイづくしの内容だそうです。

わたしはこの件の報道に触れ、ポイントカードはお持ちですか問題もついにここまできたかと思った。つまり、抗議を受けないようにすることが最優先事項になってしまった日本の社会において、起こるべくして起こった出来事だということである。

いまやほとんどすべての店で聞かれる「ポイントカードはお持ちですか」という語りかけは、もちろん「ポイントカードを持っているのに出し忘れているのではありませんか、ポイントがつかないと損をしますよ」というお客への親切心で言っているのではない。あとになって「ポイントカードを確認してくれたら思い出して出せたのに」という文句を言うお客、つまり「ポイントがつかなかったのは、店員がポイントカードを確認しなかったせいだ」というクレームに対する水際作戦だ。

全体からするとおそらく少数であろうクレーマーへの対処を優先する店のために、ポイントカードを持っていない善意の不所持者は、一日に何度となく「持ってません」と言わされる。

企業のクレーマー水際作戦は、マニュアルによって具体的な戦術が提示され、店員の最優先業務として忠実に実行される。そして、マニュアルによって定型化された言葉は、店員を通じてコミュニケーションを拒絶する。いわんや直接乗客が読むスカイマークの機内文書をや。

それにしても、この機内文書の起案から機内配備までに、世の中からはどう見えるのか、自分が乗客だったらどう思うか、などの視点で意見する人はだれもいなかったのか。あるいは、だれかは「ちょっと違うんじゃないの」とか「ちょっと言い方変えようよ」とか異議申し立てたんだけど、その意見はつぶされたのだかどうだか。たしかに飛行機というのは全般的にサービス過剰なところがあるから、個人的にはサービスの簡素化で安い運賃というのは歓迎です。要は伝え方です。

スカイマークのホームページでこの件についてのプレスリリースを読んでいたら、問い合わせ先が「営業部広報担当」となっている。顧客の命を預かる会社なのだから、片手間広報でなく、半身は会社、半身は社会の広報部をつくる、あるいは専門家のアドバイスを受けたらいいのに (いまあわてて受けているかもしれない)。

先週たまたまみていた「ティファニーで朝食を」にこんな印象的なシーンがあった。

普段と違うことをやって楽しもうとニューヨークの街に出た主人公のオードリー・ヘップバーンとジョージ・ペパードが、5番街のティファニーに入る。たった10ドルでプレゼントを買いたいという2人に物腰やわらかな年配のベテラン販売員は、少し困った顔をしながらも電話のダイヤル回し(時代を感じます)はいかがかと提示する。もっとロマンチックなものがいいと、2人はさらにこんな無理難題を言う。

「キャンディのおまけのこの指輪にネームを彫ってほしい」

販売員の紳士はキャンディの箱とおまけの指輪を見て、「そのキャンディには今も景品がつくのですか。めまぐるしい世の中でホッとすることでございます」というふうに粋に返す。そして、ちょっと異例ですがと断った上で「当店はものわかりがよいほうで、ご注文いただければ明日の朝には」と言っておもちゃの指輪への名入れを快諾する。

ヒューマンスケールなやりとりですな。シブイです。

 

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