2011年8月1日4:47 PM

以前のエントリー「カタカナ表記について」でも冒頭触れましたが、新卒で入ったIBMという会社は、まっ先に社内用語集が配られるほど専門用語の多い会社でありました。

まず新人研修のときに慣れるのに苦労したのが、英字や数字の羅列である。ES/9000、AS/400、RS/6000、PS/55、S/88などの製品名からはじまり、3270、5250などなど。パソコンすらさわったことのない文系学部出身の新入社員には、その英字と数字のかたまりと実物を結びつけるパスがなく、最初はまったく頭に入ってこなかった。

次に英文字略語である。MVS、AIX、SNA、CMOS、RISCなどのテクノロジー用語に多い。でも一番びっくりしたのはEBCDICである。IBMがつくった文字コードのことであるが、これをELT(Entry Level Trainingの略、つまり新人研修)の教官は「エビシディック」と読むといった。Bがビ、Cがシ、と読むのか!ほかにDASD(「ダスド」)もなんか響きにインパクトがあった。その後、サン・マイクロシステムズに移ってからもいろいろな略語に出会ったが、L10Nにまた驚いた。LOCALIZATIONの略で「エルテンエヌ」と読む。最初のLと最後のNの間にある文字が10あるからL10Nと書くという。いいんですか、そんな略し方して!とにもかくにもライオンではなかった。

さて、IBM時代。研修が終わって、部門に配属されると今度はカタカナ用語に悩まされることになる。いつまでたってもちゃんと理解できなかった個人的ベスト3は、エンドースメント、フルフィルメント、コンティンジェンシーである(次点はアローワンス)。いまでも理解できているか自信がない。何度もカタカナ用語の海でおぼれそうになった。

またくだらない前置きが長くなってしまいましたが、そのなかでも「エンドースメント」とは長いつきあいをしています。

広報の仕事の中で出てくるエンドースメントとは通常、IT企業のプレスリリース発表時のおまけ的慣習のことである。新製品やサービスを発表するときに、パートナー企業や顧客企業から推薦文をもらうのである。これはIT業界特有の慣習といってもいいだろう。ためしにプレスリリース、エンドースメントでネット検索してもIT企業以外のものは出てこない。

プレスリリースの観点からは、エンドースメントをつけることによって会社名や肩書きや人名など神経を使う箇所が増えるし、プレスリリースの分量も多くなってしまう。そしてわたしの経験からいうと記事に引用されることもない。仲間内でほめあっているようにもみえる。エンドースメントの存在によってニュース素材の価値を高めるとは考えにくい。

では実務上どうしているかというと、担当者がすでにエンドースメントをもらう約束をしていたら文末か添付資料にさりげなくおさめる。もし「エンドースメントはどうしたらいいか?」と聞かれたら、「記事を書く素材として報道機関に提供するプレスリリースという観点からは、エンドースメントが直接ニュース性を高めるとは考えにくいし、記事の中で引用されることもまずありません。エンドースメントをパートナーやお客様からもらう行為が、営業活動や顧客とのリレーションシップになんらか貢献するというのであれば止めることはしませんが。。。」と伝えるようにしている。

プレスリリースはもはや報道機関だけがみるものではなく、ホームページなどでいろいろな関係者が目にする文書でもある。だから、エンドースメントはまったく効果がないといい切る自信はないのだけど、関係各社が新製品の発表を歓迎する定型的な文章をみて、「この新製品は価値がありそうだ。ひとつ説明を聞いてみようじゃないか」などと考える人はいるのかな、とは思う。そしてやっぱり気になるのは、仲間内でほめあっているようにみえるのではないか、ということだ。

しかし、いつごろからIT業界にエンドースメントなる慣習が定着したのだろうか。慣習化してしまったものを原点に立ち戻って、なんのためのものなのか、ほんとうに必要なものなのか、などともう一度考えてみてもいいんじゃないかと思うのであります。

 

トラックバックURL