2011年5月31日12:35 PM

以前、60年代から70年代にかけてVANヂャケットの企画の仕事をしていた方からおはなしを聞く機会があった。たのしくお酒を飲みながら、「VANの社員は洋服を販売するときにストーリーもいっしょに売ったんだよ」と語ってくれた。実際にVANの全盛時代に働いていた人のリアルなはなしを聞いて、とても感激した。

ただそこにある服を売ろうとするのではなく、お客さんとの会話を通して、女の子とデートをする、だとか、ともだちの結婚式に出席する、だとか、時と場合による具体的なシーンを想定してコーディネートを提案する。それはVANの社員みんなに浸透していて、たとえば小物の企画を担当していても、ジャケットやシャツなど他の商品の素材やディテール、すべてを勉強したという。

広報の仕事もストーリーが大事だと考えています。

広報の仕事は、記者や編集者とコミュニケーションするとき、つまりその先のメッセージを届けたい対象とコミュニケーションしたいとき、つねにストーリーを意識したトークやライティングの力が求められる。

たとえば、新製品の発表であれば製品名や価格、販売開始日、対象顧客、機能や性能などの事実は第一に大事だけれど、それだけだとその製品の価値はなかなか伝わりにくい。

市場の動向、開発の背景、ポジショニング、顧客のメリット、その製品がどのような目的で開発され、どういうふうに社会の役に立つのか、どんな価値がもたらされるのか、というようなストーリーがあってはじめて新製品の存在がグッといきいきしてくる。

なぜその製品が生まれてきたのか、どんなシーンでその製品を使えば効果があるのか。

プレスリリースでは長々と書けないのでビシッと端的に、記者発表会で説明するときは全体をストーリーで貫くことができると説得力が増す。

そして、そのストーリーは、軸足を会社と社会の境界線に置いている広報がリードしてつくる。

ところで、VANの創設者の石津謙介氏はT.P.Oという言葉を作り出した。どんな時に(Time)、どんな場所で(Place)、どんな場合に(Occasion)、どんな服装であるべきか。氏(師)の1965年の著作「いつ・どこで・なにを着る?」(婦人画報社)には、いろいろなシーンでどんな服装を着たらカッコイイか、が紹介されている。実に59シーンでの服装の提案がなされている。半世紀近くむかしの本だけど、内容はぜんぜん古くない。グレンチェック・オーバープレイドの装丁もクールである。

「デートにはなにを着るか」の章はこう結ばれている。「はっきりと自分を主張すると同時に、いつも相手の心を推しはかるという優しい心づかいが服装の上にも現われるというのが何よりも望ましい。デートの秘訣は時と場所を変え、いろいろの場面で相手を観察し、自分を表現するというのが最も効果的である。」

コミュニケーションの本質であると思うのであります。

 

トラックバックURL