2011年2月23日4:51 PM

その昔、機械クラブという記者クラブがあった。広報の仕事を始めた1996年のPR手帳には「経済団体連合会記者会(機械)」と書いてあったと記憶している。

記者クラブの是非については議論があるがそれは別として、わたしにとって機械クラブは勉強の場であり、修行の場であった。

当時はすでに、プレスリリースを発表するときは電子メールを利用していたが、まだ郵送やFAXでの送付も配布方法として残っていた。製品写真は紙焼きだったので、プレスリリースをFAXしたら写真はバイク便、なんていう合わせ技もあった。しかし、コンピューターメーカーの広報にとって、なんといっても大きな存在は機械クラブだったのではあるまいか。

一昨年に移転のため取り壊されてしまった大手町の旧経団連会館1F北側に機械クラブはあった。といっても建物の正面入口から入るのではない。入口を左に見ながらスルーして薄暗い通路を進んだ奥にあった。そこに行けば、新聞社やテレビ局の電機業界を担当する記者に会えた(クラブには電機のほか、自動車担当の記者も所属していた)。

機械クラブにプレスリリースを配布するには、発表の2日前の午後5時までに幹事社に概要を連絡して申し込みをする。だが、発表が完了するまで、そう簡単ではない。いくつかのハードルを越えなければならない。

まず、クラブの受付の女性(たいていは年配のご婦人、以下おばさん)に電話して幹事社はどこかをたずねる。「発表したいのですが、幹事の方はどなたですか?」「A新聞とB新聞ですよ」といった会話になる。しかしここで普通の会社のように電話を回してくれたりはしない。電話はそれぞれの社が個々に引いているからだ。だから、いったん電話を切ってかけなおす。だが、切る前に「ご在席ですか?」と聞くのを忘れてはならない。「A新聞さんは席はずしてるけど、B新聞さんはいますよ」との情報を得る。ここではじめて電話を切って、B新聞(の席)の直通番号に電話をかけるのである。

幹事の方に発表内容の説明をして、めでたく申し込み完了。ではない。次に所定の申込用紙に発表の概要と日時と発表方法を記入してFAXする。ちなみに発表方法とは資料配布かレク付かということ。資料配布はクラブにずらっと設置されている各社のポストに投函すること。今でも「投げ込み」という場合があるが、ここから来ているのであろう。レク付はレクチャー付きの略で、クラブまで出向いて発表内容の説明をすることである。ま、記者会見ですな。申込用紙はA5の大きさで、わたしたちはA4の紙に2枚並べてコピーしておいてチョキチョキ切って使っていた(ふつう、会社にA5の用紙ってないですよねえ)。

そしてFAXするのだが、これで終わりではない(シツコイね)。FAX送信して少しあとにまた受付に電話して申込用紙が無事届いたか確認する。ここでおばさんが発表タイトルを確認してくることがある。「最新のアールアイエスシーチップを搭載したユーエヌアイエックスサーバー新製品の発表、アールアイエスシーチップって何?」。汗を流しながらRISCとUNIXの説明をして、申し込み終了。あとは当日、プレスリリースと写真や関連資料を封筒に入れて、とことこ機械クラブに参上し、文字通りポストに投げ込む。FAX受け取り代(?)10円を受付の募金箱のようなものに入れるのも忘れずに。

コンピューター産業にあまり詳しくない一般紙・ブロック紙の記者や時には受付のおばさんにも横文字中心のコンピューター製品を電話で簡潔に説明できることが求められた。だから、電話をする前に、相手に要旨をぱっとつかんでもらうにはどうすればよいか必死で考える必要があった。もちろん、これに肝心のプレスリリースを書くという作業が加わる。こんな空気だから、投げ込むプレスリリースは当然わかりやすいものでなければならない、というプレッシャーがかかる。このプロセスを繰り返すことで大いに鍛えられた。

少々めんどうなところもあったけれど、いろんな人とコミュニケーションして事が進んでいく実感があっておもしろかった。報道に値するニュース素材を出さなければならないという緊張感もあった。これは今でも忘れてはいけない大事な感覚だと思う。

ところで、機械クラブに配布するのだからとプレスリリースを分かりやすく書こうとするあまり、ある時期アルファベットやカタカナをなるべく排除した文面を追及していたら、今度はIT系の雑誌編集者から「逆にわかんないよ」と言われた。物事やりすぎはよくない、ほどほどがいい、ということも学びました。

♪♪♪ 今日の一枚はリタ・クーリッジ! ♪♪♪
Rita Coolidge / Same
このあいだ、当研究室でレコード聴きながらワイワイ飲んでいたときに話題になったのがVan Morrisonの「Crazy Love」。この名曲、いろんな人がカバーしていますが、リタ・クーリッジの歌声がなんといっても味わい深い。このネイティブアメリカンのデルタレディをサポートするのはStephen StillsとBobby WoomackのギターとBooker Tのオルガン。おねえさんのPriscillaもコーラス参加。この「Crazy Love」、Jesse Davisのも魂こもった名カバーだと思いますが、石田長生の日本語カバーもシブイです。YouTubeで検索してみてください。♪ 目黒駅前研究室においてあるアナログレコードをこの場を借りて少しずつ紹介してます ♪

 

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1件のコメント

  1. 目黒広報研究所 » Blog Archive » 厳しい記者にあわせるということ says:

    [...] 交換をした。(機械クラブにはある種厳しい基準があった。以前のエントリー「機械クラブで鍛えられたこと」でも少し書いてあります。)それ以来のお付き合いである。時は流れ、少し [...]